脳卒中のリハビリ(急性期)
急性期のリハビリは、できるだけ早い時期から始めます。最近では、発症して手術を受けた場合でも、その翌日にはリハビリを始めることが多くなっています。
患者さんが自分で体を動かせなかったり、意識が回復していない場合には、医療スタッフや家族が姿勢を変えたり、手足の関節を動かしたりします。
患者さんを寝かせたまま、動かさないでいると、筋肉や骨が衰えたり、関節が固まって動かしにくくなる「廃用症候群」が起こり、その後のリハビリが難しくなってしまいます。急性期のリハビリをできるだけ早く始めるのは、この廃用症候群を防ぎ、機能が失われるのを最小限にとどめるためです。
脳卒中で壊死した脳細胞の周辺には、死んではいないものの機能が停止している仮死状態の脳細胞があります。急性期のリハビリテーションには、こうした脳細胞に刺激を与え、機能を回復させる効果もあると考えられています。
リハビリの具体的な内容は、ベッド上で安静にしていなければならない時期には、手足を正しい位置に保つ「良肢位保持」、床ずれを防ぐ「体位変換」、手足の関節を動かす「間接稼働域訓練」などを行ないます。
その後、病状が安定してきたところで、ベッド上に座る「座位耐性訓練」や飲食物を飲み込むための「嚥下訓練」も組み込んでいきます。
通常、手足の関節を動かしたりするのは看護士や理学療法士ですが、動かし方や注意点などを聞いたうえで家族が行なってもかまいません。
ある程度の機能回復をはかったら、機能訓練室での回復期のリハビリが開始されます。
脳卒中のリハビリ(回復期・維持期)
ベッドサイドにおける急性期のリハビリの成果を確認したところで、回復期のリハビリがスタートします。機能訓練室が中心になりますが、リハビリ専門病院に転院して治療を続行するケースもあります。
回復期のリハビリは、社会復帰を支援するために、医師や看護士をはじめ、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、ソーシャルワーカー、臨床心理士など、さまざまな知識や技術を持つスタッフがリハビリに参加します。
理学療法士は運動療法や物理療法を担当し、主に下肢の機能回復を目指します。平行棒内歩行→杖歩行→杖なし歩行→階段昇降のステップを積み重ねます。麻痺の程度によりますが、70〜90%の人が歩行可能な状態に戻るとされています。
作業療法士は日常生活動作の指導を行い、主に上肢機能の回復を目指します。麻痺した手の回復のほか、麻痺していないほうの手も使って簡単な日常動作ができるようにします。
言語療法士は失語症の患者さんのコミュニケーション能力の回復を目指します。
また、臨床心理士は麻痺の回復や機能改善のため、リハビリの進み具合などから今後のリハビリへの取り組み方を指導します。
歩行や日常生活動作の訓練を行なうことはもちろんですが、それだけでなく、転院や社会保障の相談に乗ったり、精神面のサポートをしたりすることも重要な目的の一つです。
リハビリを始める当初は、思うようにいかないことで、患者さん自身がイライラしたり落ち込んだりすることが多く、周囲の人は相した気持ちを察して、リハビリに取り組む意欲を持たせてあげることが大切です。
回復期のリハビリを終えたら、いよいよ退院となりますが、取り戻した機能が失われないようにする必要があります。そのために家庭で行なうのが維持期のリハビリです。
ポイントは、「何に介助が必要で、何に介助が必要でないか」の見極めです。家庭では、どうしても家族への依存度が高くなりがちです。また、周囲の人も「危ないから」、「大変そうだから」と、つい手を出してしまいがちです。家族は、「手は出さないが、目は離さない」という基本方針で見守ることが重要です。