くも膜下出血と太い血管にできた動脈瘤が破れる病気です
脳は、軟膜、くも膜、硬膜という3層の膜によって覆われています。くも膜は細い線維でできていて、それがくもの巣のような網目状になっていることから、この名前がついています。
脳脊髄液で満たされた、軟膜とくも膜の間にあるくも膜下腔に出血するのが、「くも膜下出血」です。発症の原因として最も多いのは、脳の太い血管から枝分かれする部分が、血流によってかかり続ける圧力のために瘤状に膨らみ、それが破裂して出血する脳動脈瘤破裂です。
出血によって頭蓋内の圧力が急激に高まり、呼吸停止や循環停止を引き起こして、急死することもある怖い病気です。発症1か月以内に死亡する患者さんが約30%とされ、一命をとりとめたとしても重い後遺症が残って社会復帰が難しいケースも少なくありません。
脳梗塞や脳出血は中高年や高齢者に発症することが多いのに対し、くも膜下出血は40歳代の働き盛りにも発症するのが特徴です。女性の発症率は男性の約2倍となっています。
脳動脈瘤以外の原因で、くも膜下出血が起こることがあります。それは先天的に脳の動脈と静脈が直接つながっているために起こる血管の奇形、いわゆる「脳動静脈奇形」がある場合です。
通常、血液は動脈→毛細血管→静脈と流れていますが、脳動静脈奇形では毛細血管を介することなく、動脈と静脈がつながっています。すると高い圧力を持った動脈血が、血管壁の薄い静脈に流れ込んで、血管の結合部分の脆い部分が破れて出血を起こしてしまうのです。
くも膜下出血の危険因子:高血圧と喫煙の人は要注意!
高血圧、喫煙はくも膜下出血の重大な危険因子です。なかでも最大の危険因子となるのが、高血圧です。血圧が高いと、高い圧力が動脈瘤にかかり続けているので、破裂の危険性が高くなります。高血圧の人は、正常な血圧の人に比べて、くも膜下出血での死亡リスクが約3倍も上昇するとされています。
高血圧の最大の原因は塩分の過剰摂取です。日本人は男女とも厚生労働省の「食事摂取基準」で定められた塩分の目標摂取量をオーバーしています。塩辛い漬物、食事の際にソース、醤油、味噌を多用する人は注意が必要です。
喫煙の習慣も重要な危険因子です。喫煙とくも膜下出血の関連性についての厚生労働省研究班の調査(2009年)によると、喫煙者のリスクは非喫煙者に比べて男性で2.19倍、女性で2.88倍も上昇することがわかっています。
タバコに含まれるニコチンやタールが全身の血管を収縮させるため、血圧が急上昇することが、喫煙が危険とされる理由です。喫煙本数はあまり関係なく、喫煙そのものがリスクを高めるというデータもあります。
脳梗塞や脳出血では、コレステロール値や糖尿病、心疾患なども発症に関連していますが、この病気ではほとんど関係ないとされています。また、先天的に血管壁に弱い部分があるなど、発症には遺伝的素因も関係しているため、家族に脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)を経験した人がいる場合も注意が必要です。