脳梗塞は脳の血管が詰まる病気で大きく3つに分けられます
脳梗塞は、「脳卒中」の一つで、脳の血管が狭まったり詰まったりして血流がとどこおり、あるいは途絶え、血液が届けられなくなった脳細胞が壊死してしまう病気です。
酸素と栄養の供給網である血管が詰まり、その先に血液が届けられなくなれば、細胞が生きていくためのエネルギーが欠乏するため、やがて組織が死滅し、その部分が担っていた機能は損なわれることになります。
脳梗塞が起こると、ふさがった血管、そして障害を受けた部位によって、運動、言語、感覚などにさまざまな障害が現れてきます。
脳梗塞は、その起こり方によって、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症の三つに分類することができます。中でも日本人に最も多いのはラクナ梗塞です。
最もよく現れる症状は運動・感覚・言語の障害
脳梗塞を発症するとさまざまな症状が現れますが、最もよく見られるのは、体の片側に現れる「運動障害」「感覚麻痺」と、「言語障害」です。これらの症状は程度の差はありますが、上記の3つのタイプの脳梗塞のいずれにも見られます。
運動障害(片麻痺)
脳梗塞で最も起こりやすい症状です。運動機能を司る「運動中枢」は「大脳皮質」にあり、そこから出た神経は中脳、橋(きょう)、延髄などを経て手足に到達します。その間で梗塞が起きると体の片側の動きが悪くなるという症状が現れます。右脳が障害されると、左半身に、左脳が障害されると右半身に麻痺が現れます。
感覚障害
触覚、痛覚、温度の感覚などに障害が生じることで、体の片側に「感覚が鈍い」「痺れる」などの症状が現れます。感覚を司る神経は、運動を司る神経とほぼ同じ場所を通っているため、上記の運動障害と同時に現れることが少なくありません。
言語障害
口唇や舌、喉などの筋肉の運動障害によって、「ろれつが回らない」「舌がもつれる」など発音に問題が起こります。さらに言葉を司る「言語中枢」が障害されると、「言葉が出てこない」「他人の言葉が理解できない」などの症状が現れます。これがいわゆる「失語症」です。失語症はラクナ梗塞では起こりません。
障害された場所によっては、これらの他にも以下のようなさまざまな症状が現れ、複数の症状を併発することもあります。
意識障害
脳の左右両側にある大脳皮質や、脳幹が障害されると、「意識がもうろうとする」という症状が起こります。意識障害のレベルは、「なんとなくいつもと違う」という意識変容と呼ばれる程度から、「昏睡状態」までさまざまです。脳幹に血液を送っている脳底動脈が詰まって梗塞が起きると、生命にかかわる危険性があります。
失調
小脳や脳幹が障害されることで、力はあるのに立てなかったり、フラフラして真っすぐ歩けないなどの状態が現れます。
失行
運動障害や知的障害はないのに、歯磨きやジャンケンなど誰でも知っているはずの行為が行えなくなる状態です。
失認
視覚や聴覚、触覚などの感覚に障害はないのに、見聞きしたり、触れたものがわからない状態です。中大脳動脈が詰まると、よく現れる症状です。
視覚障害
視覚中枢のある大脳の後頭葉に梗塞が起こると、視野の片側が欠損する「同名半盲」という状態を引き起こします。また、脳幹が障害されると、物が二重に見えたりします。
脳梗塞の危険因子はどれも動脈硬化と深い関係にあります
厚生労働省の「脳梗塞急性期医療の実態に関する調査」によれば、脳梗塞を起こした患者さんが持っていた危険因子として、多い順に「高血圧」「糖尿病」「不整脈」「喫煙」「脂質異常症」というデータが出ています。注目すべきは、これら5つの危険因子の全てが「動脈硬化(血管の収縮性が失われて、硬く狭くなった状態)」につながっているということです。
例えば、脳梗塞を引き起こす最大の危険因子とされる「高血圧」では、血管に強い圧力が長期間かかっているので、血管壁が傷つき、やがて分厚くなり、しなやかさが失われて動脈硬化を引き起こしてしまいます。
慢性的に高血糖状態が続く「糖尿病」になると、血液中の余ったブドウ糖が血管壁の特殊なたんぱく質と化学反応を起こして、血管壁が傷つきます。その傷を修復しようと血小板が集まると、血栓を形成したり、血管が狭くなり動脈硬化を引き起こしてしまいます。
血液中に悪玉のLDLコレステロールと中性脂肪が必要以上に増えた状態になると「脂質異常症」と診断されます。LDLコレステロールは増えすぎると、血管壁に入り込み「アテローム(お粥状のドロドロした塊)」を形成します。その結果、血管が狭くなったり、血管壁が脆くなって動脈硬化が起きてしまいます。
「喫煙」でニコチンやタール、一酸化炭素などが体内に入ると、全身の血管が収縮して血圧が上昇します。また、タバコは血液中のLDLコレステロールを増やすため、動脈硬化を促進させてしまいます。
このように脳梗塞の発症に深い関係のある危険因子は、いずれも動脈硬化につながっています。まずは生活習慣の改善によってこれらの危険因子を回避し、動脈硬化を進行させないことが、脳梗塞の予防になります。
発症リスクが一番高い季節は冬ですが、真夏も注意!
脳梗塞は一般的に冬に発症しやすいとされています。気温が低くなると、体内では体温の低下を防ぐために血管が収縮し始めます。すると、もし動脈硬化が進行している状態にある人の場合、ますます血行が悪くなってしまいます。そのため脳梗塞の発症リスクが増大してしまうのです。
その一方で、脱水を起こしやすい真夏も注意が必要です。脱水症状に陥ると、血液がネバネバになり、動脈硬化が進行している血管が詰まりやすくなってしまいます。予防のためには、こまめの水分補給が欠かせません。
脳梗塞の発症を時間帯別で見てみると、一般的に夜寝ている間から午前中にかけて起こりやすくなっていますが、脳梗塞のタイプによっても起こりやすい時間帯があります。
血圧は1日内の変動が大きく、昼間は高く夜間に低くなります。通常は夜中の3時くらいが最も血圧が低くなり、その後上昇を始めます。この血圧が上がり始めた時間に、血液を固める血小板の機能が活発になり血栓ができやすくなります。そのため、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞は就寝中に起こることがよくあります。
一方、心臓にできた血栓は、急に体を動かしたときなどに剥がれやすくなります。そのため、心臓で発生した血栓が脳動脈に流れて血管を詰まらせる心原性脳塞栓症は、起床後間もなくの、活動を開始する時間帯に起こりやすくなっています。