血栓溶解力が強いt-PAで脳梗塞の後遺症を大幅に軽減
脳梗塞の多くは血栓(血の塊)が脳の血管に詰まって発症します。そこで血栓を溶かす薬剤を使い、血流を回復させる治療が行われます。血管を詰まらせている血栓を薬剤で溶かし、血流を即回復させる治療法を「血栓溶解療法」といいます。
早期に血流を回復させることで、脳細胞の壊死を食い止め、壊死の状態から救える可能性が高まります。脳梗塞を発症してから治療を開始するまでの時間が早ければ早いほど、多くの脳細胞を救うことができます。
脳梗塞で血管が詰まっても血流が途絶えても、脳細胞が即壊死するわけではなく、時間をかけて徐々に壊死していきます。死にかけの脳組織を「ペナンブラ」といい、ペナンブラは血流が回復出れば機能を取り戻すことができます。血栓溶解療法が「時間との闘い」である理由はここにあります。
血栓を溶かす薬には、ウロキナーゼとt-PA(アルテプラーゼ)の2種類があります。ウロキナーゼは、超急性期の脳梗塞に対して従来使われていた薬ですが、血栓を溶かす力はそれほど強くありません。現在では下記のt-PA(アルテプラーゼ)に続いて第2選択薬となっています。カテテーテルと呼ばれるごく細い管を脳の血管まで送り込み、梗塞部の手前で投与します。
一方、t-PA(アルテプラーゼ)は2005年に脳梗塞への健康保険適用が認められた、新しい薬です。現在では超急性期の脳梗塞に使用する第1選択薬となっています。血栓を溶かす力が非常に強く、点滴で投与されます。t-PAの治療効果は高く、脳梗塞の発症後4.5時間以内に使用することで、3〜4割の患者さんは後遺症が残らないレベルまで回復します。
しかし、血管の損傷が著しいケースでt-PAを使用すると、血管が血流の圧力に耐えきれず、破れて出血することがあります。そのため、t-PAの使用に際しては、「発症後4.5時間以内」などの基準を細かく定め、安全に使うことのできる患者さんに限定して使用されます。
t-PAの使用を慎重にすべき条件は、「過去に脳梗塞・脳出血を発症した経験がある」、「梗塞を起こした範囲が広い」、「出血しやすい持病や体質がある」、「血圧コントロールが上手くいっていない」、「最近、脳以外の大きな手術を経験した」などとなっています。また医療機関側にも、「超急性期の脳梗塞の治療経験が豊富な専門医が診察をする」などの条件があります。
初期対応の遅れで血栓溶解療法を受けられる患者さんは少ない
超急性期の脳梗塞の治療に非常に有効な血栓溶解療法ですが、発症後4.5時間以内に治療を開始できる状態でなければ選択することができません。実際、脳梗塞を発症した患者さんで血栓溶解療法を受けることができたのは、全体の5%程度にすぎません。
その理由は脳梗塞の発作(体の半身が痺れる、眩暈・ふらつき、視野欠損、ろれつが回らないなど)が現れても、それが脳梗塞の症状だとはわからなくなったり、「しばらく様子を見てダメだったら救急車を予防」といって貴重な時間が失われているからです。
仮に脳梗塞でなかったとしても、上記の症状から脳の病気かもしれないという見当はつくはずです。脳梗塞、くも膜下出血、脳出血は発症後の早期治療が遅れると、予後にも大きな影響を及ぼします。特に突発的な激しい頭痛を伴うくも膜下出血は死亡率が高い恐ろしい病気です。
脳血管の異常を少しでも疑ったならば迷わず119番に電話して、救急車で脳卒中ケアユニット(SCU)がある専門病院へ救急搬送してもらいましょう。それでも「本当に救急車を呼んでいい症状なのか?」と迷う場合は、救急相談センターに電話しましょう。各自治体では電話番号「#7119」で、24時間体制で対応をおこなっています。