心臓でできた血栓が脳動脈を詰まらせる心原性脳塞栓症
2004年に自宅で倒れて病院に救急搬送された長嶋茂雄さんを襲ったのが、この心原生塞栓症による脳梗塞です。簡単に言うと、心臓でできた血栓が血流によって脳動脈まで運ばれて、脳の血管を詰まらせるものです。
心臓の拍動リズムが乱れる不整脈の一種に心房細動と呼ばれるものがあります。1回1回の脈の大きさやリズムがまちまちになるのが特徴で、高齢者に多くみられます。心房細動が起こると、血流が滞って血栓ができやすくなります。
心臓でできた血栓はフィブリンという凝固タンパクで固められていますので、大きくて溶けにくいという特徴があります。これが血流にのって脳内に流れ込み、血管を詰まらせてしまうのが「心原性脳塞栓症」と呼ばれるタイプの脳梗塞です。
心房細動が原因の2/3以上を占めていますが、それ以外の危険因子としては、心臓内で血液の逆流を防ぐ弁が正しく開閉しなくなる「心臓弁膜症」、心臓の筋肉に酸素と栄養を届ける冠状動脈が詰まる「心筋梗塞」、心臓の筋肉に異常があり、不整脈などを招く「心筋症」などがあげられます。
心原性脳塞栓症の特徴は、ほとんどの場合、日中の活動時に突然起こって手足の運動麻痺や感覚障害、意識障害などが一気に現れます。他の部位に比べて心臓で作られた血栓が大きいため、太い血管も詰まらせてしまい、重い症状が現れやすいのが特徴です。
脳の動脈を詰まらせていた血栓が、溶けて血流が再開すると、脳梗塞の中に出血が起こり、症状が悪化することがあります。これを「出血性脳梗塞」といい、心原生塞栓症では特に起こりやすい現象となっています。
最大の危険因子である心房細動は、脳ドックで行なわれる心電図検査で調べることができます。しかし、発作性の場合は短時間の心電図では発見が困難なため携帯型の記録装置を体に装着して、24時間測定する「ホルター心電図検査」を行います。
また心臓に意図的に負担をかけることで、心臓に問題を抱えている人がどの程度の負荷で異常が発生するかを調べる「負荷心電図検査」も心臓細動などの不整脈を発見するのに有効です。
抗凝固薬で血栓の形成を防いで心原性脳塞栓症の再発を予防
心原性脳塞栓症は、脳の太い動脈を詰まらせるため意識障害、麻痺などの症状が重症化しやすく、死亡率も高いため、再発予防が重要です。先述したとおり、心原性脳塞栓症の引き金になるのは心房細動(不整脈)によって心臓内で作られた血栓(血液のかたまり)です。したがって血栓ができないようにすることが再発予防の最初のステップとなります。
血栓の形成を防ぐために有効なのが、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」のワルファリンとNOAC(非ビタミンK阻害経口抗凝固薬)と呼ばれるお薬です。
血液の固まりやすさは個人差が生じるため、ワルファリンを使用する際には血液が凝固する時間を検査して、その患者さんに合った服用量を決定します。
ワルファリンは抗生物質と一緒に服用すると、薬の作用が強くなりすぎる(血液が固まらなくなる)、逆にビタミンKの入った薬や食品(緑黄色野菜、納豆、海藻類など)は薬の作用を弱くしてしまうため注意が必要です。
このようにワルファリンは服用の際に患者さんが注意すべき点が多いため、近年ではワルファリンと同様の効能があり、ビタミンKを多く含む食品をとっても効果に影響がなく、服用量を決定するために血液検査の必要もないという利点がある「NOAC(非ビタミンK阻害経口抗凝固薬)」が第1選択薬として処方されるようになっています。
NOACには、プラザキサ(製薬会社:ベーリンガーインゲルハイム)、イグザレルト(製薬会社:バイエル)、エリキュース(製薬会社:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)、リクシアナ(製薬会社:第一三共)が発売されていますが、効能や副作用はほぼ同じです。
ただし、NOACに欠点がないというわけではなく、腎臓からの排泄量が多いため、腎臓に障害がある患者さんによっては容量が限定されたり、使用できないことがあります。